俺はルーク。孤児だ。
浜辺に倒れてた所をこのオペラハウスのオーナー、イエモンさんに拾われた。
イエモンさんはおじいさんだけどすっごく元気なんだ。
イエモンさんだけじゃない、長く一緒に働いてきたキャシーさんやヘンケンさん達もすごく元気な人達だ。
ここオペラハウスでは、様々な有名な劇団や合唱団がよく来る。
俺もここで働いてるうちに、興味を持って少しだけ歌や楽器をかじったりもした。
ある日、有名な一座『暗闇の夢』が来たとき、いつものように仕事をしながら覚えた歌を口ずさんでいたら、
女座長のノワールさんに急に声をかけられて驚いた。

「坊や、良い声をしてるねぇ。」

「え、お、俺っ?」

「そうだよ、ねぇ、ちょっと歌って見せてごらんよ。」

そう言ってノワールさんは俺を舞台へとひっぱって行った。
舞台へあがると、練習中だったのか役者さん達がいて、怪訝そうな顔をして俺を見る。

「ノワール様、そいつはどうしたんでゲスか?」

「この子良い声してるんだよ、ホラ坊や歌ってごらんな、さっきの歌。あたし達が1ヵ月後に公演するやつだろう?」

「あ、あれは皆さんが練習してるのを少し聞いてて・・・あんまり覚えてないんだけど・・・。」

「わかってるとこだけでいいから、歌ってごらんな。」

そういわれておずおずと歌いだす。
いつもは口ずさむ程度だけどはっきりと声を大きくして歌うのは滅多になくて、緊張する。
でも歌っていくうちにだんだんと気分がよくなっていくのを感じた。

「・・・・こ、ここまでしかわからないけど・・・」

「すごいじゃないか坊や!殆ど覚えてるよ。それにそのよく通る声!アンタ今回の舞台に出てみる気はないかい?」

「えっ!!?」

「の、ノワール様!?」

急にそんな事を言い出したノワールさんに俺も含め皆が驚く。
だけどノワールさんは一人喉を痛めて出られない奴がいるからその代役にと言ってきた。

「ほらこれが台本だよ。」

そう言って渡されたのは分厚い台本。
自分の役のところを確認するとそこは・・・・


「しゅ、主役じゃないですかこれ!!お、俺演技なんてとても・・・!」

「大丈夫だよ、メインの歌の部分だけ演じれば。顔も仮面をつけるから分からないさ。あとはこれまで通りにウチの者にやってもらうからさぁ。」

「それでもメインの場面だなんてとても俺に勤まるかどうか・・・」

「いいかいみんな?しっかりサポートしてやるんだよ!」

ノワールさんがそう言うと、皆も特に異議はないのか、頷き俺に笑いかけてくれた。
も、もう決定しちまったってのかよ・・・・




それから俺は1ヶ月の猛特訓が始まった。




「〜♪、〜♪・・・あれ、ここはどーしたらいいんだっけ?」

地下の奈落で練習する俺。
今日は休館日で劇場には誰もいない。
それでも舞台で練習するのはなんだか恥ずかしかったので地下にある奈落で練習をした。

「〜♪・・・うーん・・・やっぱ違う気がするなぁ・・・。」

一人で練習となると解らない所が出てくると誰にも聞けないので困る。
だけど本番まで時間がないのだから必死になって練習をした。

その時、舞台の上から一つの声が聞こえた。

「〜♪・・・この部分はこう歌うといい。」

「え?」

「良いからもう一度この方法で歌ってみろ。」

「あ、うん・・・〜♪・・・あ、出来た!」

急に聞こえた声に驚くが、上手くいかなかった旋律が出来てすっきりした。

「そうだ、それでいい。良い声だな。」

「あ、ありがとう・・・で、でも今日は休館日で一座の人達はいないはずじゃ・・・」

声の主が気になり奈落を上げて舞台へと上るが、そこには誰もいなく一輪の名も知らぬ花が落ちていた。





それからルークが夕方に毎日練習していると、その声の主は3日に1度の割合で現れるようになった。
本当の名前は知らないけれど、彼は

『俺はただのファントム・・・幻だ。気にするな。』

と言ったのでファントムと呼ぶことにした。

相変わらず俺が奈落にいて、舞台からファントムが話すだけで顔はおろか姿さえ見れないけれど、
彼が丁寧に教えてくれたおかげで俺の歌は上達していった。
一度だけ何故姿を見せないのか聞いた事があるが、
昔、火事で全身に大火傷を負ってしまい、とても見せられる姿ではないから。
と言われ、申し訳なくなってそれ以上は聞かない事にした。
彼は去っていく時はいつも舞台に一輪の花を置いていく。
白い可憐な花だったり、元気なオレンジの花、道端で咲いているような和やかな淡いピンク色の花など日によって違ってて、
まるで練習を頑張ったご褒美みたいで嬉しかった。

漆黒の翼一座の人かと思い色々な人達と話して見たが、
ファントムと同じ声の人はいなかった。





そうしてついに本番当日を迎えた。
開演にはまだまだ時間があるけど俺は裏方の手伝いもしなきゃいけないから大忙しだった。


「ルークさん、この道具を舞台の上手の方へ運んどいて!」

「はい!」

「ルーク、この垂れ幕はもう少し下ろせないか?」

「はーい!いま行きます!」

「ルークさん、この道具もう一つないかい?急遽二つ使われる事になったんだ。」

「はい!すぐ取ってきます。」


頼まれた道具が仕舞われている倉庫へと急ぐ。
あまり使われる事のない道具だから一番奥の倉庫へと俺は急いだ。

ガチャリと倉庫の扉を開けると塵臭い匂いが鼻を襲う。


「うっえ、今度ここも掃除しねーとな。」

そうして道具を探してると、急に扉がバタンと音を立てて閉まった。
急に音がしたため驚き、手の中の道具を落としてしまいそうになり慌てる。

「?・・・なんでドアが閉まったんだ?」

ここは奥のほうの倉庫で風が届くとも限らない。
まあ、些細な事かと思いドアノブに手をかける。

「・・・あ、れ?」

ガチャガチャとドアを捻るがドアが開かない。

「鍵・・・閉められた・・・?」


さーっと血の気の引くのを感じる。
大声で叫びドアを叩いても奥のほうにあるこの倉庫には滅多に人がこないから誰も気がつかない。


「舞台、どうしよう・・・・。」


半ば強引に引き受けさせられた役だが、内心すこし嬉しかった。
一生懸命練習していくうちに、歌がすごく好きになった。
なにより、ファントムとの練習がすごく好きだった。
あんなにも練習に付き合ってくれたのだから、きっと本番の舞台も見に来るに違いない。
舞台に立ち、ファントムに教わった歌を全力で歌って見せたかった。


「もう、俺の役過ぎちゃったな・・・・。」

しばらく蹲っていたが、ふと腰に下げている懐中時計を見ると既に開演しており、任された役の時間はとうに過ぎていた。
もう一つ任された場面があるが、もう10分もない。
じわりと滲んでくる涙を袖でゴシゴシとこする。

舞台に出られないのは残念だが、時間が過ぎれば心配したイエモン達が自分を探すだろう。
彼等ならこの倉庫の事も知っているから大丈夫。
そう自分に言い聞かせてると、ドアのほうからガチャガチャと忙しい音がした。


「ルーク!」


開かれたドアから漏れる明かりが暗闇に慣れた目を刺激する。
だけどこの声は・・・・


「ファントム?」


ようやく定まった視界の先には仮面を被った男が立っていた。


「無事だったか。」

「ファントム・・・!どうしてここがわかったんだ?」

「話しは後だ、取り合えずルーク、脱げ。」

「は?」

いきなり脱げと言われて素っ頓狂な声をあげる。
だが付け足すようにファントムが言った。

「俺とお前の服を交換するんだ。俺が今身に着けているのはお前の舞台衣装だ。」

「え・・・?」

「さあ早く。」

急かされるままに着替えるルーク。

最後にファントムが仮面を外して渡す。

そこには


「同じ・・・・顔?」


まるで鏡のようにそっくりな顔があった。


「・・・その話も、後だ。急げ、次の場面までもう5分もない。」


「あ・・・」


「お前の練習の成果、見せてくれるんだろ?」


「・・・あぁ!」


しっかりと頷くと急いで舞台袖まで走った。




「すみません!俺っ・・・・!」


「どこ行ってたんだい?もう次のシーンが始まっちまうよ!」


「す、すみません・・・」


「さあさ、さっきの歌も上出来だったよ、次も頼むわよん!」


さっきの歌、と言われて一瞬意味が分からなかったが、きっとファントムの事だろう。
なんとなくそう思い、俺は舞台へと集中した。













「ほんっと、あの時は驚いたよなー。」

掃除の手を止め後ろを振り向く。
そこには同じ顔をした男、アッシュ―――かつてのファントムが舞台の上に足を組んで座っていた。

「何に驚いたんだ。」

頬杖をつき、口の端を吊り上げこちらを見る様はとても整っていてとても同じ顔の双子とは思えない。
そう、俺とファントムは生き別れの兄弟だったのだ。

「あの日、俺を倉庫に閉じ込めたのは役を奪われた人の逆恨みで、
 閉じ込められた俺の代わりにファントムが役を務めてくれてて、
 ファントムがあの有名な企業ファブレグループのご子息様で、
 そのうえさらに俺がファントム・・・アッシュと生き別れの双子の兄弟って事。」

「多いな。」

フッと笑うアッシュに釣られて俺も笑う。

アッシュは以前、この劇場で行われたオペラに招待された際、偶然俺を見つけたそうだ。
あまりにも同じ顔で驚いたから両親を問い詰めた所、過去に海難事故で行方不明になった兄弟がいたと白状したらしい。
両親が今まで俺の事を黙ってたのは口に出すのにも辛い出来事だし、幼いアッシュにも同じ辛い思いをさせまいと言わなかったらしい。
それを知ったアッシュはすごく怒ったらしいけどアッシュの事を思ってした事だから結局は許していた。

俺はというと相変わらず劇場で働いている。
一応、家族のもとへと顔見せはした。
両親は泣いて謝り、俺を抱きしめてくれた。
けど、この劇場も俺にとっては家だ。しばらく落ち着くまではここに居させてもらうことにした。
あまりの変化にまだちょっと頭がついていけないんだ。

それでも週に何回かは実家に顔見せはする。
アッシュも、自分の仕事で色々忙しいはずなのに、暇を見てはここに来てくれる。
今はそれだけで十分幸せだった。



「なあルーク。」

「ん?なにアッシュ。」

「お前、舞台はもう出ないのか?」

「ええっ!舞台なんてとんでもない!」

「そうか?あの時の歌声はなかなか良かったぞ?」

「それは『ファントム』の教えが良かったからだよ。」

そう言って悪戯っぽく笑う。
するとアッシュはそれに返すようにニヤリと笑った。

「じゃあ、もう一度『ファントム』が教えたら歌うか?」

「あはは、考えとく。」




「・・・・だ、そうだ。」

「へ?」


「あらぁん。そいつは良かった、もう一度お願いしようと思ってたのよん。」

俺の背後から艶のある声が響く。
振り向けばいつかの女団長がいた。


「え?え?」

「そいつがもう一度お前に役を頼みたいらしくってな。」

「そうそう、アンタの歌声はとても良かったわよん。そこのアッシュの旦那も良かったんだけど、まるで相手にしてくれなくってさ。」



「と、いうわけだ。歌うんだろう?『ファントム』が教えるなら。」

そう言って何処から取り出したのか、いつぞやの仮面をつけるアッシュ―――否、ファントム。




「アッシュ!!?お前っ嵌めたな!!」



「さぁな。」



仮面に覆われない口元がニヤリと愉しげに笑った。










*   *   *   *   *   *   *


大変長らくお待たせ致しました!!
その上長々とすみません;

エディン様のリクエストで『アシュルクでオペラ座の怪人パロ(ハッピーED)』でした!
オペラ座の怪人は名前は聞いた事はあるのですが、内容がまったく知らなかったもので;
ご希望のストーリーとなってるかはわからないですが、貰っていただけると幸いですv

リクエストありがとう御座いました!




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