―――雨の日の記憶4―――
突然ガタガタと震え、明らかに尋常でないほど怯えている様子のルークに男はぎょっとして驚いた。
すると一瞬、男の気がルークのほうに逸れる。
―――その僅かな隙をアッシュは見逃すはずがなかった。
目にも止まらぬ早さで男の懐へ近づくとその手に握られているナイフ手刀で叩き落とした。
ルークを己の腕へと引き寄せる。
そして息つく暇もなく男の唖然とした顔へと回し蹴りを入れた。
それは見事にヒットし、男は呻く暇もなく昏倒した。
憐れ、数本の歯と顎の骨を犠牲にした男の顔は無残なものだった。
これは完璧に病院送りだと人事に思いつつガイはアッシュと、
その腕に抱かれ、未だ震えているルークの元へと駆け寄った。
「いや・・・だ、こわ・・・こわいっ・・・・・・」
「ルーク。」
まるで幼子のように身を縮め、涙声で怯えるルークに、アッシュはそっと諭す。
「に・・・さ・・・・・・ひくっ・・・・・」
「ルーク、落ち着け、息をしろ。・・・・・・俺はここにいる。」
そう言うと雨で張りついた髪をはらってやる。
何かを探すように彷徨っていたルークの目がアッシュを認める。
「・・・ひくっ・・・ぁ・・・・・・」
「そうだ、ゆっくり息をすえ。」
「・・・・・・ぁ・・・しゅ・・・にぃ、さ・・・」
「大丈夫だ。もう怖いものはいない・・・」
「・・・ほん、と・・・?」
ルークはまるで幼子のように呂律の回らない舌で聞き返す。
「あぁ、本当だ。」
「よかった・・・・・・」
そうしてルークは安心したように淡く笑んで目を閉ざした。
「ルーク!・・・・・・気を失ったか・・・・・・。」
その様子を見守っていたガイがアッシュに話しかける。
「アッシュ・・・。」
「あぁ判っている、わけを話す。だが、まずコイツを保健室へと運ぶ。・・・それからでかまわないか?」
「あぁ、わかった。」
ガイが頷くのを認めると、アッシュはルークを抱き上げ保健室へと向かった。
保健室独特の医薬品交じりの匂いの中、
ジェイドは保健室のベッドに寝かされているルークの脈を取っていた。
腕を離し、息を詰めて見守っていた二人に向かう。
「見たところ、首の傷も浅いですし、他に外傷もありません。
念のため脈と体温を測りましたが、特に以上はありませんでした。
気を失っただけでしょう、じきに目を覚ましますよ。」
「そうか・・・」
二人は詰めていた息をそっと吐き出した。
アッシュに向き直ったジェイドが、いつもの何を考えているか判らない笑みを浮かべ、問いかけた。
「では、幾つか伺ってもよろしいでしょうか?」
その笑みに少々癪に障りつつも、アッシュは返答を返した。
「・・・・・あぁ」
「まず、単刀直入に言います。ルークは貴方の弟ですね。」
「そうだ、ルークは俺の双子の弟だ。」
「一卵性双生児ってやつか・・・。」
確信をもってガイが呟いた。
「ふむ、やはり・・・・・では、貴方は何故ルークが弟だとわかったのですか?
まぁ、名前と容姿で大体わかるでしょうが、確証がないので。」
「それはこの指輪だ。」
そう言うとアッシュは、ルークの首に掛けられている指輪を指した。
「この指輪は母上がルークに贈ったものだ。裏に古代イスパニア語で『聖なる焔の光』
・・・・・つまり『ルーク』と刻まれている。そして横にある紋はルークの紋だ。」
「古代イスパニア語・・・・・・あまり知られていない古い言語ですね。紋というのは?」
「ファブレ家の男児には生を受けた時、それぞれ自分の紋が与えられる。まぁ、名前と似たようなものだ。」
「なるほど、どうりでどの紋とも一致しなかったわけですか・・・。
では、貴方とルークは何故離れて暮らしてたのですか?
ルークの記憶が失った事とも関係あるでしょう。」
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
しばらく沈黙しつつ、ルークの髪を撫でていたアッシュだったが、
ふとその手を止め、ようやく口を開いた。
苦渋をはらんだ表情をしていた。
「・・・・・7年前の、話になる・・・・・・・・・・。」
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あとが・・・・げほっごほっ(何があった!?)
あれれー?
次で過去編にいくって言ったのは誰だったかなー??
・・・・・すんません、私です;
なかなか区切りが上手くいかなくて・・・;
しかもファブレ家男児の紋云々〜は全部捏造です。
好き勝手に考えました!!
次回こそルークの記憶喪失のワケに迫ります・・・!!
ありがちな薄っぺらい話ですが・・・;
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