――――雪降る夜に(前編)――――




















「38.9℃」







細いガラス管の中を通る水銀の線が高熱を感知して長く伸びている。













「完全に風邪ですね。」




体温計と俺を交互に見て、ジェイドは少し呆れたように溜息をついた。













「まったく、あなたも運がないですねぇ。」





「うー・・・ごめん;」





「ご主人様っご主人様っごめんなさいですのっミュウのせいで・・・・・・」








聖獣として崇められているチーグルの子供――――ミュウが、小さな体を一生懸命に動かし、
ベッドに這い上がり、俺の傍に寄って来た。







「お前のせいじゃないって、俺の不注意だったんだよ。」



「みゅうぅぅ・・・」







すっかり耳を下に垂らしてしまった小さな頭を俺は重い手を上げ、安心させるように撫でる。




ふわふわとした毛並みが実に触り心地が良い。
なるほど、これならティアじゃなくても触りたがるな。









「そうですよミュウ。これはルークの不注意ですから、あなたが気に病む事はありません」






ジェイドはいつもの何を考えているかわからない笑顔で事も無げに言った。






「ぐ・・・・;」



普通フォローするだろ!と言おうとしたが、本当の事なので言えない。
それに、ジェイドが普通だとは俺も他の仲間も思わなかった。








それよりも、身体がだるく、声を出すのも億劫だった。










(にしても、ほんとにドジっちまったな・・・・)

















5時間前――――













俺達はわけあってケテルブルクにいた。




ネフリーさんがまとめた書類をマルクトの首都、グランコクマに届けるようにと、
ピオニー陛下から直々にジェイドに指令が下されたのだ。





こういうとき、改めてジェイドって軍人だよなぁ・・・って思う。


普段は何考えてるかわからない笑みを浮かべ、
厭味やら冗談やら言ってばっかりで、とても軍人とは思えないけど・・・・・・。




急ぎの用ではなかったため、書類の整理が済むまで俺達はしばらくケテルブルクに滞在する事にした。









すると、散歩の途中で逃げてしまった犬を探して欲しいと、ある少年に頼まれた。



なんでも、ロニール雪山に興味本位で行ってみた所、
いきなりモンスターと遭遇してしまい、慌てて一目散に逃げてきたらしい。




その時、うっかり犬の手綱を放してしまい、犬もモンスターに驚いたため、
一人と一匹は別々の方向に逃げてしまったとの事だ。




なんだってそんな危険な所へと行ったのだ。と思ったが、
半べそかく少年の願いを無下に断る事もできず、結局俺達は犬を探しにロニール雪山へと向かった。






雪山に入ると、少年の犬は意外とあっさり見つかった。



周りにモンスターがウロついてたため、怖くて木の影に身を潜めていたみたいだ。



とにかく見つかってよかったと、雪山を出ようとした時、





突然俺達の前にモンスターが飛び出してきた。







その拍子にミュウがコロコロという効果音が似合うかのごとく、転がっていってしまった。










「みゅうぅぅぅぅ???!」

「ミュウ!」









慌ててとっさにミュウを掴む。








そして俺は、崩した体勢を整えるべく、たたらを踏もうとした・・・・・・・・・・・・










・・・・・・・・・・・が













「ぉわぁっ!!!」



ザッパーーーーーーーン!!!!!!!















たたらを踏もうとした所には地面がなく、そこには雪に覆われて判らなかったが川があった。










俺は見事な水飛沫をあげながら川へと落ちた。









川はそんなに深くはなく膝丈ぐらいだったけど、肩から落ちたので全身びしょ濡れになってしまった。









それに・・・・・・・・・・とても、冷たい。









そんなに速くはないが、流れがあるので、川は凍ることはない。


だがその水の冷たさは、氷のように冷たく、肌を刺すようだった。





けれどもそんな中、とっさにミュウを掴んだ腕を上にあげ、
その小さな身体が濡れないようにした俺ってえらい。




そう自我自賛していたら、上から仲間の慌てた声が降ってきた。






「ルーク!ミュウ!」


「大丈夫か!?」





「大丈夫じゃねぇーっつーの。全身濡れちまって、さみーのなんのって!」








ミュウをティアに渡し、ガイが差し伸べてきた手を掴み、川から上がるのを手伝ってもらう。



どうやら先ほどのモンスターはアニスのトクナガがブッ飛ばしたようだ。(苦笑)






「っ――――くしょんっ!」




「このままでは風邪をひいてしまいます。用事も終わった事ですし、すぐに街へ帰りましょう。」







ジェイドの言うとおりに、俺達はすぐに街へと帰ることにした。









―――――――だが、そんな時に限ってモンスターは次々と出てくる。




日が暮れてきたので、モンスターの出現率は昼間より高くなっていた。











「だぁーーもぉーーーー!!なんでこんなに出てくるのぉーーーー!!!!」









斬影連旋撃をモンスターにたたきこみながら、アニスは何度目かわからない愚痴を叫んだ。





「そうですわね、よりにもよってこんなときに―――エリアルレイザー!!」




「えぇ、ですからさっさと片付けてしまいましょう―――イグニートプリズン!!」














「あー・・・やっと街が見えてきた・・・」




そのころにはもう日が落ちて、街に灯りがともり始めていた。












「さむ・・・・・・・」




街が近くなったとたん、強い眩暈と寒気が襲ってきた。





ぶるりと肩を震わせた俺を見て、ティアが心配そうに俺の顔を覗き込んできた。



「ルーク、大丈夫?顔が赤いわよ。熱・・・出てきたのじゃない?」



「あー・・・・かも・・・・さっきから、何か、ダリィ・・・・・・」




実際声を出すのも辛かった。



服が吸水した水を絞り、タオルで頭などを拭いたりはしたが、
髪や服はまだ湿っていて、肌に張り付いて気持ち悪い。



その上、先ほどから戦闘続きだったため、体を動かし、
体力、体温ともに徐々に奪われていって、今ではもう歩くのがやっとだった。




幸い・・・・というのか、もうモンスターは現れず、これ以上戦う事は無いようだった。


しかし、皆に心配かけまいと平気を装っていたが、どうやらもう隠しきれないみたいだ。


それに、先ほどから段々と痛みを増してくる頭痛に、思考すらも危うかった。






(・・・・ったま いてぇ・・・・・・・)







いつも例の頭痛とは少し違う痛みに、わずかに眉をよせる。








(・・・・・・こんなんじゃ・・・・アッシュから連絡来たって、わかんねぇじゃんかよ・・・・)








ふいに、頭の痛みが増した気がした。







どこか覚えのある痛みにルークは思い出そうとしたが、
その痛みに耐え切れず、ルークは意識を手放した。











意識を手放す前、みんなの驚きの声と、今ここにはいないはずの彼の声を聞いた気がした。


























***************

=あとがきっぽいもの=


えへー初アビス小説☆
あれれー??最初は一話で終わる予定だったのに・・・;
一応アシュルクです。
まだアッシュ出てないけど・・・・(ぐはっ)













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