〜がんばれおんなのこ〜
がしゃーん!
「な、なんだっ??」
何か軽い金属が落ちた音がして、ルークは驚き、その音の発生源である厨房へと向かった。
厨房を覗けば、座り込んで俯いているルーアリス。
目の前にはボウルが逆さまになって、周りに生クリームの水溜りを作っていた。
「ルーア、どうしたんだ??」
「ふぇ・・・ぐすっ・・・お母様ぁ・・・。」
涙をぽろぽろと零しながら抱きついてきたルーアの頭を撫でながら、
ルークは理由を聞いた。
どうやらケーキを作っていたらしいが、中々上手くいかなかったらしい。
嗚咽まじりにぽつぽつ話したルーアにルークは頭をポンポンと叩くと、
にっこりと笑って言った。
「じゃあ、一緒に作ろう?」
「はいっ」
そう頷いてやっと笑顔に戻ったルーアはルークの手を取り、立ち上がった。
◆ ◆ ◆
カチャカチャ・・・
「じゃあルーア、卵割ってくれる?」
「はい!」
ぐしゃ・・・
「あ・・・殻がはいって・・・」
「取り出せば大丈夫だよ。卵はな、角じゃなくてこうやって平面にぶつけて・・・」
「まぁ・・・今度はちゃんと割れたましたわ!」
「そうそう、上手上手。」
パラパラ・・・
「あ、ふるいはな、もう少し高めにやると空気がよく入るんだ。」
「そうなのですか・・・こうですか?お母様。」
「そうだよ、上手じゃないか。」
「えへへ・・・///」
「ねえ、お母様。」
「ん?」
生地をオーブンに入れて焼きあがるのを待っている間に、
ルークが用意した紅茶を飲みながらルーアがポツリと言う。
「お父様もだけど・・・どうしてお母様はそんなにお料理が上手なのです?」
「うーん、これでも昔は前衛的だって言われてたんだよ。」
頬を掻きながら苦笑するルークにルーアは驚き、目を瞬かせる。
「まぁ、本当ですか?」
「うん。でも、旅とかするとさ、学ぶ事が多くて・・・それは料理もで、沢山練習したんだ。
旅の仲間でさ、料理が上手な子がいて、その子にタップリ扱かれたんだぜ?」
「そう・・・お母様も料理できなかったのね・・・。」
「そ、だから」
ポンとルーアの頭に手を乗せ微笑むルーク。
「ルーアも練習したらきっと上手になる。」
「・・・はいっ////」
照れくさそうに俯くルーアの頭を撫でると、
ルークは残っていた紅茶を飲み干して立ち上がった。
「よし!ルーア、ラストスパートいくぞ!」
「はい!お母様!!」
◆ ◆ ◆
「アークお兄様、ルーシお兄様。」
「なんだルーア」
「なに?ルーア」
「ハッピーバレンタインですわ!」
笑顔とともに差し出されたチョコレートケーキに二人の顔が凍りつく。
(あああああアーク!!これ・・・ルーアの手作りか!?)
(俺に聞くな!だが見た目は普通だな・・・・)
(で、でもっ中身はわかんないぜ?)
「お・に・い・さ・ま?何をこそこそ話してらっしゃいますの?」
ニコニコと笑顔で威圧するルーアにアークレスとルーシアスは冷や汗を流す。
「い、いや・・・・」
「上手そうだな〜って思ってさ・・・・て、手作り・・・か・・・?」
ビクビクと尋ねるルーシにルーアは無邪気な笑顔に戻り頷く。
「えぇ、お母様に教わりながら作りましたのv是非召し上がってくださいなw」
母と共に作ったと聞いて二人は安心した。
「でも、殆ど私が作りましたのよ!」
そう言って胸を張るルーアに二人は再び肩を落とした。
(うぅ・・・俺まだ死にたくない・・・)
(男なら腹を括れっ!)
(そう言うアークだってフォーク持つ手が震えてるじゃないか!)
(ぐ・・・・)
切り分けられたチョコレートケーキを目の前に、二人はゴクリと喉を鳴らす。
同じ動作でケーキの一片をフォークの上に乗せ、パクリと勢いよく口の中へと放り込んだ。
咀嚼するたびに粘り気のある食感がし、
ピリピリとした刺激が舌に伝わる・・・・のではなく。
フワフワとしたスポンジ生地に、なめらかな生クリームの舌触り。
ショコラの甘い香りが口いっぱいに広がった。
「あ、れ・・・・?」
「美味い・・・・?」
「まぁ、本当ですか!ふふっ大成功ですわね♪」
普段の彼女の腕からは信じられない程のケーキの美味しさに二人は驚きながらも、
皿の上に切り分けられたケーキを全部平らげた。
「すごいな、ルーア!ケーキ美味かったぜ!!」
「あぁ、とてもよくできていたぞ。」
「ありがとう御座います。お母様のおかげですわ・・・!」
賞賛され照れるルーアの様子を隣の部屋からコッソリと、
ルークは慈愛に満ちた表情で見ていた。
そして、昔のことに思いを馳せる。
『もールークってば、ほーんとに料理下手だねぇ。』
『うぅ・・・やっぱり俺に料理なんて無理なのかな・・・』
『そう思ってると、いつまでも上達しないわよ。』
『そうですわルーク!私も練習しますから、共に頑張りましょう!!』
『な、ナタリア・・・無理しなくていいからね;』
『いいえ!上に立つ者としても、苦手を克服しなければなりませんわ!!』
『そういうのと貴族って関係あるかしら・・・;』
『アニス・・・ティア・・・ナタリア・・・うん、俺頑張るよ!』
「何ぼーっと突っ立ってんだ?」
後ろから急に抱きしめられ少し驚くが、慣れた温もりに微笑むと首を捻り相手の顔を伺う。
「アッシュ、今日は早かったんだな。」
「あぁ、提出する書類も殆ど昨日のウチに済ましてて少なかったしな。
で、あいつらはなにをしている?」
「ん、今日ルーアと一緒にチョコレートケーキを作ったんだ。
と言っても、俺は殆ど教えるだけだったけど。」
「あぁ、今日はバレンタインデーか。」
「そうだよ。」
「で?」
「ん?」
アッシュは少し屈み込み、ルークの耳元で囁いた。
「俺へのバレンタインは?」
「////・・・後でチョコを部屋に持って行くよ。」
「楽しみにしている」
「うん。」
「だが・・・」
「ふぇ?」
ちゅっ
「先にコッチを貰っておく。」
「/////ばか・・・・・・。」
顔を真っ赤にしてキスされた口元を手で覆うルークを、
アッシュは愛らしく思いぎゅっと抱きしめた。
ルークもアッシュに身を預け、二人は再び唇を重ねあった。
おまけ
「あ、父上帰って来てる。」
「寄せルーシ、今は母上と二人っきりにしておいてやれ。」
「わ、わかってるよ・・・にしても母上は父上と一緒の時、すっごく綺麗に笑うよな。」
「愛する者の前だ、当然だろう。
父上だって母上の前だと雰囲気がすごく柔らかくなるしな。」
「ですわね。・・・・私もお父様お母様のような家庭を築きたいですわ・・・」
「「る、ルーアにはまだ早いっ!」」
「あらいやですわお兄様方、只の想像ですわ。」
* * * * * * * * * * *
バレンタイン小説です!
なんかイベントネタ初めてかも・・・
いつも当日になってから気付くんですよね(遅)
ルが多くて何度間違えそうになったことか・・・(自分で考えたクセに)
ルーアリスちゃんの口調、実はまだあんまし決まってなかったり・・・ごにょごにょ・・・
まあ、なんにせよ。オチはやっぱりアシュルクで!(爆)
フリー配布は終了しました。