――――雪降る夜に(前編)――――
次に目を覚ました時視界に入ってきたのは、ケテルブルクホテルとは違う、宿の薄汚れた天井だった。
――――そして今に至る。
あたりを見渡すと、部屋にはベッドに寝かされている俺と、
俺の腕にしがみついて鳴いているミュウ。そして傍らの椅子に座っているジェイドしかいなかった。
「・・・・けほっ・・・・みんなは・・・・?」
「他の部屋にいますよ、うつっても困りますしね。
皆さん心配してましたよ?なんとかは風邪をひかないはずなのに、と。」
「それ・・・・遠まわしに俺が馬鹿だって言ってるだろ・・・。」
「いえいえ、そんな事はないですよ?遠まわしになど言ってませんから。」
否定するのはそこかよ!!
まぁ・・・・実際馬鹿なんだけど・・・・・。
「それにしても困りましたね・・・・まさかここまでツイていないとは。今日は厄日ですかね?」
「?」
「意識を失ったあなたを環境のよい場所へと移そうとしたのですが、
ホテルのほうはどこも満室で、仕方なくこの宿へとガイがあなたを運んでくれたのですよ。」
「そっか・・・・」
ガイ、ありがとう。と心の中でそっと呟く。
「それに・・・あいにくと、パナシーアボトルを切らしてまして、ウィークボトルしか無かったのですよ。
店にも置いてないみたいですし、ウィークボトルで徐々に治すしかないですね。」
「そっか・・・迷惑かけて・・・・ごめん・・・。」
「・・・・・・今はゆっくりと休みなさい。多分これからまだ熱が上がるでしょう。
今回は急ぎの用ではないのですから、丁度いい機会です。今のうちに沢山睡眠をとっておきなさい。」
ジェイドは俺がアクゼリュスの時以来、毎晩うなされてロクに睡眠をとって無い事を知っていた。
ジェイドが珍しく気遣ってくれるのが、正直に、嬉しいと思った。
「なんか・・・ジェイドが父親みたいだ。」
「フフ。私としてはもっと出来のいい子供が欲しいものですね。」
いつもの調子でジェイドは言うけれど、その時のジェイドはいつもより少し優しい気がした・・・・・多分。
額にのっていた熱ですっかりぬるくなった手拭いを取り、多分冷たいであろう水の入った桶の中に浸す。
ジェイドはそれを絞り、また俺の額へとのせた。
「では、私はこのぬるくなった桶の水を取り替えてきます。
ミュウ、あなたもうつされたくなかったら私と一緒に来なさい。」
「でも、ご主人様が…」
「ミュウ、うつると・・・・・・・・・・こほっ・・・・いけねぇから、お前はジェイドと行け。」
「みゅうぅ…わかりましたですの……」
そう言ってジェイドとミュウは部屋を出ていってしまった。
部屋には俺一人。
正直いうと、少し心細い。
でもみんなにうつしたくないから、仕方がない。
そう思い、再び眠りにつこうとした。
だが、一度目を覚ましたからか、中々眠りにつけない。
それに、息が苦しい。
また、熱が上がったみたいだ。
「けほっ・・・」
「なに風邪ひいてやがる。この屑が。」
未だ降り続ける雪とともに音もなく窓から入ってきたのは、
自分のオリジナル――――アッシュだった。
俺は思わず飛び起きた。
「あ、アッシュ、なんでこっ―――ごほっごほっ!」
あまりにも驚きすぎて、空気の固まりが喉に絡まり、激しく咳き込んでしまう。
そんなルークを見たアッシュは眉間の皺を深くしつつ、つかつかとベッドへ近づいた。
「アッ…ごほっ……んで…ここ…ケホッ…に…」
「落ち着け。喋るか咳き込むかどっちかにしろ。」
そうしてアッシュはベッドに腰掛け、ルークの呼吸が整うのを待った。
言われたとおりにルークはとりあえず呼吸を整えた。
まだ少し苦しかったが、突然の来訪者に嬉しくてそんな事など気にはならなかった。
「けほっ……ふぅ。アッシュ、なんでここに?」
「…………回線を繋げたのだが………応えがなかったものでな。」
え?
それって……
「心配して……来てくれたのか?」
やっぱりあの最後に感じた頭痛はアッシュからだったのか。
「勘違いするな。戦力が減ると困るからな。だから……おい、何笑ってやがる」
そうだとしても、来てくれたのが嬉しかった。
「いや…来てくれて嬉しいなぁーって思って。」
そう言うとルークはアッシュに本当に嬉しそうに微笑んだ。
「なっ……」
あ、照れてる?
「変な事いうんじゃねぇ!屑がっ!!」
「なっ…!屑ってお前……っ!」
何でまたそんな事言うんだよ!と言おうとしたが、再びおきた咳にその言葉は中断された。
「っ…!っげほっ!ケホッ…!!ごほっ……!!」
呼吸が満足にできず、苦しさからか、目に涙がじわりと浮かぶ。
「!?――――チッ。」
アッシュは一瞬、驚いたように軽く目を見開き、やがてバツが悪そうに舌打ちをし、
未だ激しく咳き込むルークの背中をさすった。
それは普段の態度からは考えられないほど、優しい手つきだった。
咳は止まったが、体力がひどく消耗され、高熱による眩暈で体が重力に逆らえず傾いてしまう。
だが咄嗟にアッシュが受けとめてくれたおかげで、ベッドから落ちる事は免れた。
「おい」
「…………ぅ……」
イキナリ倒れかかった相手に非難の意味も含めて慌てて声をかけるが、
帰ってくるのは不規則な浅い呼吸と苦しそうな呻き声ばかり。
またあがってしまったであろう熱のせいで意識が朦朧としているのか、目が虚ろだ。
ぬるくなった手ぬぐいを退け、額に手をあてる。
熱い。
その額は余裕で高熱の部類はいるであろう熱さだった。
「……」
アッシュはゴソゴソと懐をさぐり、一本のパナシーアボトルを取り出した。
蓋を開けると、薬独特の様々な漢方の匂いがした。
それをルークの口元に押しあてる。
「飲め。」
だが、すでに意識が朦朧としてるルークは思うように体が動かず。液状の薬は口から零れ落ちてしまう。
「チッ…」
二度目の舌打ちをしたアッシュはおもむろにパナシーアボトルの中身を自分の口に含み、ルークのそれへと口づけた。
―――――コクン
僅かに上下した喉を見て、アッシュはルークが薬を飲んだ事を認めた。
そうしてその行為を2、3度ほど繰り返したあと、ルークの口元に零れ落ちた液薬を親指でそっと拭ってやる。
心なしか、先程よりも顔色が良くなったように思えた。
無意識の内にホッと息をつく。
ふと、人が近づいて来る気配がした。
多分、仲間のうちの誰かが様子を見に来たのだろう。
アッシュは再びルークに軽く口づけた。
今度は人命救助のためでなく。
愛しさを込めて。
名残惜しそうに唇を離し、自分のとは僅かに違う緋色の髪をさらりと撫で、アッシュは足早にその場を立ち去った。
アッシュが窓から姿を消して、間もなく、入れ替わるように水桶を手にしたジェイドが部屋へと入ってきた。
「寝ましたか………おや?」
ジェイドは軽く目を見張った。
先程までとは違い、幾分ルークの顔色が良くなったように見える。
だがすぐに、先程まではなかった、枕元に置いてあるパナシーアボトルを認めて、納得がいったかのように笑んだ。
「まったく…………素直じゃないですねぇ。」
でもまあ、今回はルークの風邪を治してくれた事に免じて、知らなかったフリをしてあげましょう。
ジェイドはそう呟いて、ルークの額にある手ぬぐいを冷やすために、彼を起こさないようにそっと取った。
後日談?
「うーん、健康っていいよなぁ!」
「ご主人様、もうお風邪は大丈夫ですの?」
「あぁ、もうすっかり――いてっ」
「みゅ?!」
「あぁ……大丈夫、多分アッシュだ」
『おい、レプリカ』
(アッシュ!昨日はありがとう)
『……何の事だ』
(あれ?昨日部屋に来てくれたよな……?……気付いたら風邪が治ってたし、
枕元にパナシーアボトルがあったから、てっきりアッシュだと………夢だったのかな?)
『ずいぶんと気楽な夢だな』
(なっなにおう!!)
『フ……元気になったようだな。』
(え?)
『あ、いや、違う!これはっ…』
(じゃあやっぱり……)
『違うと言っている!』
(アッシュ)
『なんだ!』
(ありがとう)
『……………フン』
――――プッ
「あ、切っちまいやがった。」
「ご主人様?」
「いや、なんでもないよ。」
「ご主人様、なんだか嬉しそうですの♪」
「そうか?……いや、そうだな。めちゃめちゃ嬉しいや。」
「よかったですの♪」
「だな♪さ、もう行こうか。皆が待ってる」
「はいですの♪」
***************
=あとがきっぽいもの=
終わっ……ったぁーーー!!!!
なんだかムダに長くなった気が…
それに皆の性格が160.7%違いますね!(微妙!)
これ…ただ、たんに私の萌ポインツを練り込んだだけなのよね…
私的萌ポイント↓
弱る受けっ子
心配する攻めっ子
薬を口移し。
てか、ちゅー!!
ちゅーが書きたかったのよ!!!(ちゅー言うな)
げへげへ。
書いた本人が一番楽しかったです。(爆)
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