【ぬいぐるみだらけの城】





大きなお城の大きなエントランスホール。

床にはたくさんの・・・・・ぬいぐるみ。



「ぶうさぎ、チーグル、マフマフ・・・これはなんだ??」


ルークは、ネズミが服を着たようなぬいぐるみを拾い上げて首をかしげた。


「しっかし、なんでこんなにぬいぐるみがあるんだ・・・?しかも床に。」

床一面を埋め尽くすぬいぐるみを見ながらルークはため息をつく。

「紫色の海を渡って、でっけーお城を見つけたと思ったら、
 アッシュがいきなり城ン中に押し込むんだもんなー・・・」


しかもそのあと扉が開かないし!と一人で憤慨していたら、
ふと、上の方からなにか呟くような声が聞こえた。


「やっと、やっと会えたわ・・・《聖なる焔の光》」


正面に続く階段の最上段に佇む一人の少女。

落ち着いた色のドレスを着て、頭には小さなティアラがある。
ひとめ見ただけならば、それなりに位の高い人なのだとわかる。
少女の横に控えているぬいぐるみが「女王様」と興奮気味な彼女を嗜めるように呟いた。
だが、少女の手には王族が持つような豪奢な杖ではなく、
その姿には不釣合いな大きな針を持っていた。


「え、えっと俺はルークって言うんですけど・・・。」


「ねえ焔、私ね、ずーーーーっと貴方に会える日を待っていたの!」


「あ、やっぱり『焔』なんだ・・・もういいよ・・・」


がっくりと肩を落とすルーク
とは対照的に、少女は瞳をキラキラさせて喜んでいる。

「あの、女王様は・・・」


「そんな他人行儀にしないで・・・それに、ティアって呼んで頂戴、焔。」

にっこりと微笑む少女。
とても可愛い・・・その手にもつ大きな針を除けば。


「え、じゃあ・・・ティア、俺、シロウサギを探してるんだけど・・・知らないか?」


「シロ、ウサギ?」


さっきまで瞳をキラキラさせていたのに、急に目と声が冷たくなる。
手に持つ針をギリリと握り締め、悔しそうに呟いた。



「シロウサギ・・・あんなやつ探さないほうがいいわ・・・!」


「え?」


「いつもいつも・・・・そうよ、猫だってそうだわ!」


「アッシュがどうかしたのか?」


「猫のくせに・・・ただの『導く者』のくせにいつも焔の近くにいる。
 ねえ焔、この城で私と一緒に暮らしましょう!そうよ、それがいいわ。
 毎日素敵なドレスを着て、お茶をして、ぬいぐるみを作ったり!」


「え、いや、でも俺シロウサギを探さなくちゃいけねえし・・・」


ドレスを着るのもごめんだ。俺、男だし!



「そう・・・だめなの・・・・」

しゅんとうつむく姿に、なんて声を掛けようかと迷っていたら、
ティアはゆっくりと顔を上げて微笑んだ。


「だったら・・・・ぬいぐるみになって、《聖なる焔の光》」


「・・・・え?」


「シロウサギなんて追わせない。猫の傍にも行かせない。
  貴方は、ぬいぐるみになって私とずっと一緒にいるの・・・!」


そう言ってティアは大きな針を振り上げこちらへと突き刺してきた。
とっさに避けると、針はぬいぐるみの腹を突き抜けて床にぶすりと刺さる。

ぬいぐるみからは、白い綿ではなく、赤い液体がどろりと出てきた。


「ひっ・・・・」


「大丈夫よ、痛いのは一瞬だけ。貴方ならどのぬいぐるいみよりも可愛いぬいぐるみになるわ。
 そして私と毎日素敵なドレスを着るの。」


やっぱりドレスか!


そんなことを思いながらも俺はそこから全力で逃げ出した。

「なんだあれ!ぬいぐるみが、針が、ティアがっっ!!」

自分でもわけのわからない事を言いながら、長い廊下を駆けて行く。
後ろをチラリとみると、ティアが大きな針を振り回しながら追いかけてきていた。


「待って、焔!」


「待てない!」


長い廊下を走り続け、広いところに抜けたと思ったら、最初に入った扉の部屋だった。
入ったときと同じように、その扉は硬く閉ざされている。


「くっそ、やっぱり開かない!!」

ガチャガチャとドアノブと格闘してたら、
後ろから追いついてきたティアがゆっくりと近づいてきた。


大きく振りかぶられた針を見て、もう駄目だと思いぎゅっと目を瞑る。




ドスッ




針が何かを突き刺す音。
そう、『何か』であって俺の体じゃない。痛みもない。
恐る恐る目を開くと一面に黒。
いや、チラリと紅い糸が見えた。



「大丈夫か、焔。」

そう声をかけられてはじめて、アッシュが俺を庇ってくれた事に気づく。

「アッシュ・・・!!針が!」

慌てて刺されたであろう背を見るが、黒いフードには穴どころか傷一つついていない。


「あ、れ・・・?確かに、針が・・・」

「猫には針はきかない。」


そうなんでもないふうに言ったアッシュを呆然と見てると、
同じように驚いたまま固まっているティアがはっとしたようにアッシュを睨みつけた。



「猫・・・!貴方って人は・・・!!」

怒りに震え針を持つ手に力が篭るのを見て、俺は慌ててアッシュとティアとの間に滑り込んだ。


「ティアっ!アッシュを刺しちゃだめだ!て、ていうか何も刺さないで!」

とりあえずその針を収めてくれ、と説得を試みる。
すると、ティアは急にポロリと涙を零しはじめた。


「なんで・・・焔は猫ばかり・・・私も、貴方がすごくすごく大事なのに。」

先ほどの剣幕からは考えられないほど弱弱しく俯いて泣くティアに俺は慌てた。

「てぃ、ティア、泣くなよ・・!えと、その・・・・
 俺・・・さ、みんなの事、まだ思い出せなくて・・・ごめんな。
 でも、きっと思い出すよ、そしたら、また仲良くしてくれるか?」

できるだけ優しく話しかける。
するとティアはようやく泣き止み、コクリとうなずいた。


「焔・・・ありがとう、私達の聖なる焔の光。
 貴方が望むなら・・・いえ、私も望むわ、また貴方と仲良くなれることを。」


「うん、だからそれまで待っててな。俺はいまシロウサギを見つけなきゃならないんだ。」

「わかったわ。」


ようやくひと段落ついて、ティアに別れを言い、俺達は城を出ようと扉を開ける。

見送りに出てきてくれたティアがふと俺を呼び止める。

「焔」

「ん?なんだティア。」







「シロウサギには気をつけて。」








「え?」


聞き返す間もなく城の分厚い扉が閉ざされた。

「気をつける・・・?」

その意味が解らないまま俺はアッシュとともに歩みだす。


「まあ、なんにせよ探すしかないよな。行こう、アッシュ。」

「我らの聖なる焔の光、お前が望むなら。」




このとき俺は気づいてなかった。

もう。《聖なる焔の光》と呼ばれる事を当たり前のように感じている事を。
そして、皆のことを『思い出せない』と言った事を。
思い出せない・・・・それは『知っていた』という事を・・・・・・






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拍手にてリクを頂ました、歪アリパロ。
リクを下さった方、如何でしたでしょうか??

今回はちょっと歪アリぽく、すこしダークに頑張ってみました・・・が・・・・
どうもいまいち黒くなりきれてない感が・・・;;;

そして歪アリのストーリーがうろ覚えだったんで殆どオリジナル路線でした:
だって首大好きティアとか首だけアッシュとかなんかいやですよね(笑)

【配役】

亜莉子→ルーク
チェシャ猫→アッシュ
女王→ティア

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