【Magical★Halloween】
世界のどこかにある不思議な街《ハロウィン・ナイト・タウン》
そこにはハロウィンに出て来るお化け達が住んでいます。
・・・おや?何やら賑やかな話し声が聞こえます。
一人はランタンの明かりのような温かい色合いの赤い髪のカボチャ魔人《マジック・パンプキン》。
もう一人は血染めのような、だけど何処か畏怖と高貴さを感じさせる真っ赤な髪の吸血鬼《ヴァンパイア》。
今宵はこの二人の話に耳を傾けてみましょう。
* * *
「アッシュー!いい加減俺の血吸えって!」
「うるせぇ、テメェの甘ったるい《パンプキン・スープ》なんて飲めるか。」
「だって俺カボチャだもん。それに飲んだ事も無いに決め付けるなよな!」
おやおや、何やら言い争ってますね。
どうやら些細な事から、カボチャ魔人の『ルーク』と吸血鬼の『アッシュ』は、
ルークの血を吸う吸わないで揉めているようです。
なにやらすごい会話にも聞こえますが、この世界ではそう珍しい事ではありません。
吸血鬼は皆さんご存じの通り生き物の血を糧とする者。この世界でもエリート中のエリートです。
一方カボチャ魔人のその身に流れるパンプキン・スープは、滋養強壮のある栄養たっぷりのスープと言われてます。
しかしルークは記憶にある限り一度も血を流した事がありません。
過保護な周りの仲間達がそれを許さないからです。
ルークは生れつき能力が高く、カボチャ魔人にしては珍しい《超振動》が使えました。
その稀有さから周りに疎まれる事も少なくないですが、ルークの持ち前の明るさと周りの仲間達。
そしてなによりルークを拾ってくれた大好きなアッシュがいるからルークは挫ける事はありませんでした。
ルークは半年前にキャラメル森に倒れているところをアッシュに拾われたのでした。
記憶喪失で、名前以外自分が何者かもわからなかったルークは拾ってくれたアッシュに大変懐き、
突っ撥ねながらもまんざらでもないアッシュを、仲間達は微笑ましく見守っていました。
「とにかく、いま俺は血を飲む気分ではない。忙しいから邪魔をするな。」
「いっつもそう言ってばっかじゃねぇか!ふん、こうなったら他に忙しくて疲れる人に――」
「やめろ」
「え、」
真剣な顔で睨みつけるアッシュにルークは思わず固まってしまいます。
「いいか、誰にも血をやるな。」
「わ、わかってるよ!耳にタコができるくらい皆に言われてるし!」
「ならいい」
「〜〜〜なんだよ!もう!アッシュなんてもう知らねぇ!!」
おやおや、ルークは遂に怒って走って行ってしまいました。
『ミュウのトコに行く!』と行き先を告げている辺りはキチンとしてますね。
* * *
所変わってチーグルの森。
この森には幽霊《ゴースト》が多く住んでいます。
特に獣《ビースト》の幽霊であるチーグルが多く生息しています。
余談ですが、幽霊には大まかに人型系《ヒューマン・タイプ》と
獣系《ビースト・タイプ》の二種類にわけられています。
そしてその二種類の幽霊を統率をしている組織が『マルクト』で
その幹部に位置する、死霊使い《ネクロマンサー》とアッシュは旧知の間柄で、
ルークもよくお世話になっているそうです。
・・・・・・もっとも、それ相応の見返りがあるそうですが。
そんな森の中、一つの切り株に腰かけて、一人と一匹が話しをしています。
「なんだよアッシュのやつ!近々ハロウィンだから忙しいのはわかってるけどさ!!」
「みゅうぅ・・・ご主人様はアッシュさんの疲れをとろうとしたんですの?」
「・・・せっかくカボチャ魔人として生まれたのに、一回も人を癒した事がないんて・・・」
記憶を失う前はどうだったか知らないけどさ。と、ルークは言いました。
それに答えるように、小さな獣幽霊『ミュウ』はこれまた小さな手を精一杯伸ばし、ルークを励まそうとしてます。
「大丈夫ですの!ご主人様のその気持ちだけでアッシュさん癒されてるですの!」
「そうかぁ?」
「はいですの!ご主人様は優しいですの!」
「ばっか、そんなんじゃねぇよ!!」
「そんな事ないですの!優しいですの!」
「だーもうウゼェ!超振動で霊質《エーテル》にすんぞ!」
「みゅうぅぅ・・・」
そう言ってルークとミュウが会話をしていると、後ろのほうでガサリ、と物音がしました。
そこには息を切らしてへたりこんでいる一匹の悪魔《デビル》がいました。
とても憔悴してる様子に心配になってルークは声をかけました。
「大丈夫か?」
「だ、だだ誰だい!?君は!?」
「俺はカボチャ魔人のルーク。」
「幽霊のミュウですの!」
「カボチャ…!?ね、ねえ君!血を僕にくれないかい?」
悪魔が必死に懇願してきてルークは戸惑いました。助けてはあげたいのですが、
アッシュと皆の約束があるので血をあげる事ができないのです。
「悪ィ。俺、血をあげられないんだ。」
「なんで!?カボチャ魔人なのに!」
「そうなんだけど皆との約束があって…」
思ったより悪魔は元気そうなので、血はあげなくてもいいとルークは思いました。
だけど納得しない悪魔はまだ引き下がりません。
「ご主人様が駄目って言ったら駄目なんですのー!」
ミュウがルークの前に飛び出して、威嚇のために炎を吹きました。
びっくりした悪魔はのけ反りましたが、ルークも驚いて、木の枝で腕を軽く引っ掻いてしまいました。
「痛っ!」
引っ掻き傷からうっすらと血が滲み出したのを見て、ルークはミュウを睨み、小さな身体を鷲掴みました。
「おまっ、ビックリしたじゃねぇか!このブタザル!」
「みゅうぅぅ〜ごめんなさいですの〜〜」
「血・・・血だ・・・。」
「え?」
「その血をよこせぇ!!!」
悪魔が叫ぶと、ルークの腕へと思い切り噛み付きました。
吸血鬼ではないので、鋭い歯も痛みを和らげる唾液もなく、激痛に襲われます。
「っってぇ!!なにすん・・・だ・・・・!?」
怒ったルークは悪魔を突き飛ばそうとしましたが、急に力が抜けて座り込んでしまいます。
悪魔は血と一緒にルークの生気も吸い取ったのです。
元気になった悪魔は信じられない事を言いました。
「ふふ・・・まさかこんなとこで人間の血にありつけるとはね。」
「なん・・・だと・・・・?」
「言葉の通りだよ。君は人間だ。」
「俺は・・・カボチャ・・・まじ、んだ・・・!」
「確かにカボチャの匂いはするけどね。でもこの甘くて真っ赤な血!!
まぎれもなく人間の血だ。しかも極上のね・・・!」
そうやって高笑いする悪魔に、ルークは信じられないと項垂れました。
人間だと知らされた事よりも、この世界に不釣合いだということにショックを受けたのでした。
アッシュや仲間とは違う存在なのだと思うと、涙が滲んできました。
そんな事は関係なしに、悪魔は高笑いをしてルークの腕を掴み持ち上げました。
「決めたよ、お前は僕の家畜にしてあげよう。これからは極上の血と生気を毎日食べられる・・・!」
「ほう、それはよかったな。」
すぐ傍で聞こえた低い声に悪魔は吃驚して振り返りました。
ですがそこには誰もいなく、しかも手に掴んでいたルークも消えていました。
もう一度もとの向きになおると、そこにはルークを抱えた一人の吸血鬼がいました。
「加速《ヘイスト》!お前、吸血鬼か・・・・!?」
「いかにも、吸血鬼のアッシュ・フォン・ファブレだ。」
「アッシュ!?あの『公爵』の爵位をもつ有名な!?」
「ほう、悪魔一族にも名前が通ってるのか?」
「そ、そんなことよりどうしてその公爵様がここに・・・?」
狼狽した様子の悪魔をフン、と鼻で笑うとアッシュは腕の中で気を失っているルークを見て微笑えみます。
その笑みは滅多に見られるものではなく、とても優しげな感情を瞳に浮かべてました。
ですが、悪魔へと向き直る頃にはその表情は跡形もなく、代わりに嘲笑が浮かんでいました。
「こいつを迎えに来た。拗ねて飛び出していったものだからな。」
「え・・・、な、なぜ人間なんかを・・・・。」
「関係ねぇ。人間だろうとルークはルークだ。
・・・・・・それにしても、勝手に何かやらかしてくれたようだな。」
にぃ、と顔だけで笑い、その瞬きの間には悪魔の背後へとまわり、その首筋へと剣を突き立てました。
「覚悟は・・・・できてるな?」
そう言って剣を引こうとした時、一つの呼び止める声が聞こえました。
「ちょっとまってくれないか。」
呼び止めた人物は森の置くから悠々と歩いてきました。
「さ、大魔王《サタン》・・・・!!僕を助けに来てくれたのかい?!」
大魔王と呼ばれた黒衣の男は長くおろした黒髪をなびかせ、アッシュにニヤリと笑いかけました。
「ハッ、悪魔一族の長、大魔王自らお出ましか。同族思いなこった。」
「いや、別に助けに来たわけじゃねぇんだ。ただちっとな、」
そう言って大魔王は悪魔を思い切り殴り飛ばしました。
悪魔は勢いのまま樹に激突し、そのまま伸びてしまいました。
その様子をアッシュがやや驚いて見てると、殴った手をぷらぷらさせながら大魔王は言いました。
「キュモールの野郎の不始末の尻拭いをしに来たってだけだ。
ま、こんなんでも同族だからな、悪いが殺させるわけにはいかねぇんだわ。『他種族にはな』」
「フ・・・・そうか。」
「こいつはウチの地域へ連れて帰ってしかるべき処罰を受けてもらうさ。ま、どうせ刑は決まってるだろうがな。
お宅らには悪い事しちまったな。お詫びと言っちゃなんだが、コレやるよ。」
そう言って大魔王が一つの小瓶を渡しました。
「生命の水《ライフボトル》か。」
「そいつなら多分その人間にも効くだろうさ。そいじゃ、失礼するわ。」
大魔王は悪魔を容赦なく引きずりながら森の奥へと消えて行きました。
* * *
「・・・・・ん・・・?」
ルークが重い瞼を持ち上げると、そこには鮮やかな赤が見えました。
次いで、自分がアッシュに抱えられているのだと気づくと少し頬を染めました。
「気が付いたか?」
「アッシュ、俺・・・・カボチャ魔人じゃない、のか?」
おずおずと尋ねると、アッシュは少しの間黙り、再び口を開きました。
「そうだ。」
「そっか・・・俺、やっぱ人間なんだな。」
「ああ、だが正確には違う。」
「え?」
アッシュは話しました。ルークを拾った時、ルークはとても憔悴していて非常に危険な状態だったそうなのです。
緊急処置として、この世界では回復薬としても使われる特殊なカボチャを食べさせました。
しかし、人間であるルークは回復するだけではなく、
この世界のものを食べた事により半分カボチャ魔人となってしまったのです。
「どうする?今ならまだ、人間に戻れる。」
「・・・・いやだ。」
「記憶か?ここでの記憶なら魔女《ウィッチ》のティアにでも頼んで消して貰って・・・・」
「違う!俺はここにいたい!」
思い切り首を横に振り、アッシュの服を掴みルークは涙目で訴えました。
「俺は・・・!もう、アッシュの家族だ!アッシュは、違うのかよ・・・!
俺は・・・人間界に戻ったほうが、いいのかよ・・・?」
とうとう泣き出してしまったルークをアッシュは思い切り抱きしめました。
「・・・・悪かった。俺も、そう思ってる。お前を人間界に戻したくない。だが・・・お前は本当にそれでいいのか?」
「当たり前だ。俺はアッシュに拾われた時からこの世界の住人だ!」
「フッ、愚問だったな。」
二人がしばらく抱き合っていると、アッシュがルークの耳元でそっと言いました。
「ルーク、完全な魔人になりたいか?」
「なれるの?」
「方法はなくはない。」
「・・・・・・うん、なる。そしたら本当にアッシュと本当に家族になれるかな。」
「馬鹿言え、もう家族だ。」
言うが早いか、アッシュはルークの首筋へと鋭い歯を突きたてました。
一瞬びくりと身体を震わせたルークでしたが、鋭い歯と痛みを和らげる唾液のおかげで痛くはないので、肩の力を抜きました。
そんなルークを宥めるように背を撫で、甘い甘いルークの血に、吸いすぎないように気をつけながらアッシュはゆっくりと血を吸っていきます。
「・・・・ん、ぁ、」
アッシュは吸った後に牙を抜くと、ペロリと傷口を舐めました。
すると傷口は跡形もなく消えましたが、僅かに貧血でグラつく頭が、確かに血を吸われた事をルークに知らせていました。
貧血のルークを支えつつ、アッシュは自分の腕へと噛み付きその血を口に含み、ルークへ口付けました。
「んぅ、んん・・・・ん、」
突然の血の味に驚き眉を顰めますが、次第にアッシュの舌に翻弄され、そんな事も気にならなくなりました。
「ふぅっん、ん、・・・んぅ・・・」
最初は引っ込みがちだった舌も、アッシュに吸われ、なぞられ、絡まれていくうちに自分からも絡まっていきました。
血の味も次第に甘く感じ、夢中になってアッシュの舌を追いかけました。
「・・・・んはぁっ」
やっと開放され肩で息をしながらアッシュにもたれ掛かると、背中を優しく撫でてくれました。
「どうだ、身体の調子は。」
「ん・・・あれ、なんか身体が軽い気がする。」
キスの余韻から覚めると解った変化に、ルークは驚きアッシュを見上げます。
「お前の血を飲んで抗体を作り、俺の血に混ぜてそれを飲ませた。・・・・お前はもう吸血鬼《ヴァンパイア》だ。」
「俺、吸血鬼になったのか?」
「なんだ、嫌なのか?」
「違う!お、俺、てっきり純粋な(?)カボチャ魔人になるんだと思ってた。」
「確かに、カボチャとお前の血は同調しやすいが、お前が最も同調したのは吸血鬼だ。」
アッシュがルークを拾った時、吸血鬼の血を飲ませなかったのは、
吸血鬼の血は純度が高すぎて拒絶反応を起こしかねなかったからです。
比較的、人間界に近いものとして選ばれたのがカボチャでした。
「ようこそ我が同胞よ、お前を心から歓迎する。」
「ん、ありがとうアッシュ。」
そう言って二人は満月の下、しばらく抱き合ったままじっとしていました。
* * *
「お母さん、このパンプキンケーキ食べていい?」
「駄目よ、それはお化けたちにあげるんでしょ。」
「そうだけど・・・僕も食べたいなぁ・・・・。」
ここはとある大きな街。
そして今夜はハロウィン・ナイト。
色とりどりのハロウィン飾りがあちこちで光ってます。
この街のハロウィンはちょっと変わってます。
子供達だけでなく、本当のお化けもお菓子を貰いにやってくるのです。
だけど街の人々はそのお化けを歓迎し、子供達と同様にお菓子をあげます。
神出鬼没なお化けはお菓子を貰う代わりにこの街の災厄などを一つ無くしてくれるからです。
ある人は、無くしたとても大事な時計を見つけてもらったり。
またある人は痛めた膝を直してもらいました。
お化けの気まぐれによって無くしてくれる災厄は様々ですが、どれも嬉しい事ばかりで、
街の人たちは年に一度のこの日のためにお化け用のお菓子をせっせと用意しました。
「いいなぁ、美味しそうだな、パンプキン・ケーキ。」
「そうだな、美味そうにできてるな。」
「ふん、食いしん坊め。」
突然背後で聞こえた声に少年はびっくりして振り向きました。
黒いマントに身を包んだ赤い髪の吸血鬼が二人いました。
「こんばんは。トリック・オア・トリート?」
髪の短い朱毛の吸血鬼がニコリと笑って、ハロウィンでお決まりの台詞を言いました。
「あ、こ、これっ!」
一瞬、あまり見事な赤毛に、少年は見とれていましたが、
慌ててテーブルの上にあったパンプキン・ケーキを差し出しました。
「ありがとう。でも、今俺あんまり腹へってないんだ。」
そう言って受け取らない吸血鬼に少年が困っていると、
今までじっと黙っていた長い紅毛の吸血鬼がテーブルの上を指して言いました。
「だから変わりにそれを貰おう」
指の指す方向を見ると、キラキラした包み紙のチョコレート・キャンディがありました。
「こ、これで、いいの?」
おずおずと差し出すと、二人は頷いてそれぞれ一つずつとりました。
「俺もアッシュもチョコレート・キャンディ好きなんだ。ありがとな。」
そう言って二人は窓から飛び降りました。
アパートの3階に住んでいる少年は慌てて窓の下を覗き込みましたが、
そこに二人の姿はなく、玄関先に飾られているランタンがキラキラと光っているだけでした。
「キャンディでよかったのかな・・・・?」
「ほらアリル、パンプキン・ケーキは食べちゃ駄目よ」
台所から戻ってきた母親に言われ、少年は慌てて今起きた事を話しました。
「そうなの・・・なら、そのケーキはもう貴方のものね。良かったわねアリル。」
「うん!・・・あれ?ママ、ほらあれ・・・」
チョコレート・キャンディの置いてあった所を見ると、キラリと光るペンダントがありました。
「まぁ、これママが2年前に無くしてしまったお母様形見の大切なネックレスよ。」
「ママ、ママも良かったね!」
「ええそうね・・・。さ、もうご飯にしましょ。そしてそのあとでケーキを切り分けてあげるわ。」
「うん!」
今夜は素敵なハロウィン・ナイト
いろんなお化けがトリック・オア・トリート。
お菓子くれなきゃ悪戯するぞ。
お菓子くれたら良い事するぞ。
二人の赤毛の吸血鬼《公爵》と《子爵》は月明かりの中、二人仲良くチョコレート・キャンディを食べました。
* * * * * * * * * * * * * * *
うっふふー☆ギリで完成ハロウィンフリーだったもの。
ちょっとチューしてみましたよ(チュー言うな)
そして別作品からちょいとゲストを出してみたり。
だって好きなんだもん・・・かっこよすぎだよあの人
↓余談ですがお化けの配役(?)
アッシュ:吸血鬼(公爵)
ルーク:半カボチャ魔人→吸血鬼(子爵)
ジェイド:死霊使い(大佐)
ティア:魔女
ユーリ:大魔王(衣装はアレで笑)
キモール(爆):成金貴族悪魔
出てないですけど、
ガイ:吸血鬼(伯爵)
アニス:小悪魔(デビっ子装備)
等を考えてました。出てないけど。